ひと昔前に生酵素やら熟成酵素やらといった酵素サプリや酵素ドリンクの宣伝をよく目にした気がするが、今では怪しい健康食品の一商品ジャンルとしてすっかり定着しているのだろうか。
個人的には最近あまりそれらの単語を見かけないなぁと思っていたら、先日久方ぶりにひょんなことから”生酵素”という単語を見かけ、その商品説明を見てみたところ、あまりのニセ科学ぶりというか充満した悪意にくらくらした次第。
ずばり言ってしまえば、生酵素サプリだろうが熟成酵素サプリだろうが酵素ドリンクだろうが、飲むタイミングがいつであろうが飲み方がどうであろうが、”酵素”としては飲んでも意味はないし、効果もない。
ダイエット系のある酵素商品の口コミを見ているとお通じが良くなったという人が一部いるが、それらの商品の成分を見てみると、複数種類の油脂や植物由来の糖類、食物繊維などお腹を緩くする成分が多数記載されている。
一部の人で便通が良くなった(場合によっては下痢をした)というのは酵素の働きではなく、お腹を緩くする成分の作用によると考えられる。
今回はがんとは関係ないが、酵素と名の付く商品に騙されて無駄なお金を費やさないよう、酵素の基本から科学的根拠に基づいて酵素商品が効かない4つの理由について解説する。
目次
そもそも酵素とは何か
酵素はビタミンなどの特別な栄養素ではなく、”タンパク質”
ちょっとネット検索をすると、酵素サプリに酵素ドリンク、果てには熟成生酵素やら、生酵素に発酵植物エキスを配合等々、酵素商品は無数に出てくる。
これらを見ていると、まるで酵素は生きてる乳酸菌や麹といった”微生物”的な感覚であったり、ビタミンや特別な栄養素のような感覚で販売されている気がしてならないが、酵素は一言で言ってしまえばタンパク質だ。
英語で言えば、プロテイン。
すなわち、ムキムキになりたい人が好んで飲むプロテインと同じ枠組みに入る。
酵素の働き
酵素の働きを一言で言えば、ある物質Aが別な物質Bへと変化しやすくなるよう助けてあげること。
イメージしやすい具体例を挙げると、パイナップルとお肉を一緒に下ごしらえするとお肉が柔らかくなる、というのは酵素の働きだ。
これは、お肉に含まれるタンパク質がペプチドやアミノ酸といった小さな分子へ変化するからであり、パイナップルに含まれるタンパク質分解酵素がこの現象を促進する。
これはあくまでも一例だが、人間を含む全ての生物には様々な酵素が存在しており、
ある物質A→別な物質B
という変換は酵素なしでは自然にはほとんど起こらない。
そのため、酵素は不可能を可能にするお助けマンと言え、体の中で物質の変換現象(代謝)を進めるうえでとても大事な役割を担っている。
酵素サプリや酵素ドリンクには効果がない4つの理由
1. 人体の酵素を植物由来の酵素で補うという概念そのものが間違っているため
酵素サプリの根底を崩す話になるが、植物や細菌に由来する酵素はそもそも人間に対するサプリメントとして成立していない。
本来、サプリメントは不足するものを補う目的で摂取するものなので、サプリメントの中身は人体で不足している物質と同じものであることが前提となる。
例えば、サプリメントの王道と言えばビタミンであるが、基本的にビタミンは人体で合成することができず人間は食物から摂取したものを利用している。
つまり、人体に存在するビタミンは元々動物や植物に由来するものであり、植物などから抽出したビタミンはそのまま人間へのサプリメントとして成立する。
一方で、酵素は元々体内で合成しているものであり、ヒトで作られている酵素と植物で作られている酵素は全く別な物質である。
仮に、Aという物質の変換を助ける酵素がヒトと植物にそれぞれ存在していたとしてもこれらは似て非なる物質であり、植物由来の酵素は人体で作られている酵素の代わりにはならない。
すなわち、人体で不足した酵素を補えるのは人間由来の酵素だけであり、サプリメントとして植物由来酵素で補給するという概念そのものが成立しない。
酵素サプリを勧めているサイトを見ると、酵素をあたかもビタミンや特定の栄養素のように扱っており、これが根本的な誤りのもとである。
2. 口から摂取しても胃を中心とした消化器官で分解されてしまうため
上述したように、酵素サプリやドリンクが、生酵素だろうが熟成酵素だろうが酵素であるならばそれはタンパク質である。
口から摂取した酵素は、通常の食事に含まれるタンパク質と同様に胃液や膵液などに含まれるタンパク質分解酵素により分解され、タンパク質の材料であるアミノ酸となる。
体内ではアミノ酸の状態で吸収され、そのアミノ酸は口から摂取した酵素とは別物である、体内で合成されているタンパク質の材料として使われたする。
すなわち、どのような酵素サプリであれ、口から摂取した場合、酵素のまま人体に取り込まれることはまずなく、そのサプリに酵素としての機能を期待することはナンセンスである。
また、仮に完全に分解されなくとも、胃酸のような強酸性の液体に漬かることでほとんどの酵素の形は崩れてしまうため口から摂取した時点で酵素としての形状は保っていないと言え、分解されようとされまいとほとんどの酵素は機能を失っている。
< 酵素は形が大事 >
酵素がある物質A→別な物質Bという変換を助けるためには、酵素とAがくっつく必要がある。
酵素は立体的な形をしており、酵素の一部分はちょうどAがぴたりとはまる形をしている。
例えるなら、酵素が鍵穴のある錠前であり、Aが鍵。
決まった鍵でなければ錠前が開かないように、酵素の形とピタリとはまるものでなければ酵素は物質変換のお助けマンとして機能できない。
すなわち、酵素が働くためにはその酵素が本来持つ形を保っていなければならない。
3. 酵素はその酵素に適した環境じゃないときちんと働かないため
とお考えの方もいらっしゃるかもしれない。
万が一、サプリ由来の酵素が無傷で体内に取り込まれたとしても次なる問題が待っている。
それは、酵素が働くためにはその酵素に固有の条件があるという点である(免疫云々の話はここでは触れない)。
これは1つめの理由としてあげた、植物由来の酵素は人間由来の酵素の代わりにはなり得ないという点の実質的な理由でもある。
少し専門的な話をすると、酵素の働きは環境中の温度や水素イオンを中心としたイオンの濃度など様々な条件の影響を受けて変化する。
当然の話であるが、人間由来の酵素は人体において、植物由来のものは植物の環境において最高のパフォーマンスが発揮されるようにできている。
植物と人間の生体内環境は全く異なり、本来、植物で働いている酵素が人体に取り込まれたとして、その酵素が人間の酵素と同様に機能するかは甚だ疑問だ。
4. 酵素は熱に弱く商品製造過程で既に失活している(機能がない)ため
酵素サプリや酵素ドリンクはいわゆる健康食品の枠に入るため、厚生労働省の定める食品としての規格基準に沿って製造される。
有名な例で言えば、酵素ドリンクの一部は清涼飲料水の規格で製造されているため、基本的に65℃以上の加熱に類する殺菌処理が求められている1厚生労働省 食品別の規格基準について 清涼飲料水。
従って、そこら辺で販売されている酵素サプリや酵素ドリンクに含まれる酵素は加熱処理済みであり、そもそも機能を失っている、ある意味死んだ酵素と言える。
つまり、酵素という観点では、そもそも意味のないものが販売されているということになる。
< 酵素は熱に弱い >
生卵を茹でると液状だった白身や黄身が固まるが、これはタンパク質が加熱されて本来の形が保てなくなった結果生じる現象だ。
これは生卵に限った話ではなく酵素でも同様に起こる。
物質Aとくっつく部分の形が保てなければ酵素として働くことができなくなるため、加熱は酵素にとって致命的と言える。
インフルエンザなどで40℃近く高熱が出るととても辛いというのは皆さんご想像に難くないかと思うが、これは酵素にも言え、人間の酵素も含めて多くの生物の酵素の形は45℃あたりから大なり小なり影響を受ける。
もっと細かい話をすれば、酵素の働きを期待するならば植物などから酵素を抽出する処理は低温で行う必要があり、抽出後すぐに使用することが望ましい。
発酵を謳っている商品に至っては酵素を抽出後、本当に発酵させているとすれば、一般論としてそこに含まれている酵素は機能が既に下がったものと言えるだろう。
おわりに
以上から、酵素サプリや酵素ドリンクといった類のものは、実際の”酵素”としては商品の宣伝文句に書かれている効果はまず期待できない。
個人的には、ダイエットなどで酵素サプリの検討をされている方は、そのお金をジムの会費に充てるなどした方が、ダイエットのみならずがん予防の観点からも有用だと思う次第だ。