がん治療において副作用は避けられない問題であり、特に脱毛は多くの抗がん剤で生じ得る。
脱毛は男女問わず精神的に大きな影響を与える問題であるが、女性が中心となる乳がん領域ではとりわけ関心が高く、脱毛の影響について研究が行われている。
今回は、乳がん患者さんに対する脱毛の影響および予防や治療に関する近年の研究をまとめた報告 “Hair loss: alopecia fears and realities for survivors of breast cancer—a narrative review“から、脱毛症の分類ならびに日本で実施可能な脱毛症対策について抜粋して紹介したい。
なお、本論文はオープンアクセス(誰でもインターネット上で閲覧可能)なので、原文に当たりたい方はリンクからどうぞ。
脱毛症の分類
化学療法によるもの
一般的な抗がん剤(化学療法薬)は、がん細胞を含む分裂速度の速い細胞にダメージを与える。
毛包を構成する細胞(毛髪に関連する細胞)は分裂する速度が早いため、抗がん剤のダメージが大きく、副作用として脱毛することになる。
化学療法による脱毛は薬剤の用量やスケジュールにより異なるが、タキサン系(パクリタキセル、ドセタキセルなど)やアントラサイクリン系(ドキソルビシン、エピルビシンなど)で生じやすいことが知られる。
また、一般的に化学療法終了後半年以内に再発毛が生じるが、タキサン系の場合、再発毛が不完全だったり時間がかかったりする患者さんの割合が高いことが判明している。
この他、これらによる脱毛は頭髪のみならず眉毛やまつ毛にも生じ、研究によって差はあるものの、多くの患者さんで大なり小なり脱毛が生じていることが報告されている。
- 乳がん患者524人のうち、47%がまつ毛または眉毛の脱毛を経験1Eyebrow/eyelash loss among survivors. In: Proceedings of the 2021 San Antonio Breast Cancer Symposium; 2021 Dec 7-10; San Antonio, TX. Philadelphia (PA): AACR; Cancer Res 2022;82:Abstract nr P4-10-11.
- 乳がん患者1478人のうち、88%がまつ毛、90%が眉毛の脱毛を経験2A multicenter survey of temporal changes in chemotherapy-induced hair loss in breast cancer patients. PLoS One 2019;14:e0208118.
ホルモン療法によるもの
タモキシフェンやアロマターゼ阻害剤によるホルモン療法によっても二次的な脱毛症が生じ、治療開始から1年以内に43-58%の患者さんが脱毛を自覚している3Endocrine Therapy-Induced Alopecia in Patients With Breast Cancer. JAMA Dermatol 2018;154:670-5. 4Hair disorders in patients with cancer. J Am Acad Dermatol 2019;80:1179-96.。
ホルモン療法ではエストロゲンの働きを下げることから、その結果としてテストステロンを含むアンドロゲン(いわゆる男性ホルモン)が上昇する。
そのため、ホルモン療法による脱毛症は男性型脱毛症と類似しており、頭皮の前頭部および頭頂部の密度が低下する。
近年では、ホルモン療法とCDK4/6阻害剤を併用する治療も行われているが、CDK4/6阻害剤でも脱毛することが知られており、ホルモン療法による脱毛パターンと異なることが報告されている。
実際、ホルモン療法とCDK4/6阻害剤を併用している患者さんでは、ホルモン療法単独の患者さんよりもミノキシジルによる脱毛治療への反応性が低下する場合があることが知られる。
日本で実施可能な脱毛症治療
赤色LED照射:Photobiomodulation therapy (PBM)
Photobiomodulation therapyは、レーザーやLEDなどの光源を使った光線療法を指す。
その中でも赤色LEDを使った治療は、男性型脱毛症や女性型脱毛症に対して複数の試験でその有効性が示されており、日本皮膚科学会の発行する”男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン”において推奨度B(行うよう勧める)とされている治療でもある。
発毛が生じる正確な原理はまだ明らかではないものの、赤色LEDが毛包幹細胞などを活性化することで毛包を成長期へと誘導する他、細胞の増殖促進をする結果発毛を促すと考えられている。
乳がん領域においてもアントラサイクリンおよびタキサン系の薬剤を用いた化学療法後の乳がん患者さんを対象とした試験が海外で実施されており、赤色LEDによるPBMを使用した患者さんでは治療後1ヶ月時点での発毛率が高いことが2023年に報告された5The use of photobiomodulation therapy for the management of chemotherapy-induced alopecia: a randomized, controlled trial (HAIRLASER trial)。
PBM治療を行なった患者さんでは使用していない患者さんと比べて全体的な健康状態も良く、化学療法後の発毛を促進する治療法として有望視されている。
ミノキシジル
ミノキシジルは発毛効果がよく知られている薬剤であり、血管拡張薬として作用する。
血流を改善することで毛髪の休止期を短縮し、成長期へ移行させる薬剤であり、日本では外用薬が市販薬として販売されている他、自由診療として経口薬が扱われている。
ホルモン療法による脱毛症に対するミノキシジルの有望性については以前紹介しているので、詳細は下記記事を参照して頂きたい。