ひょんなことから目にした、がんの発症率を上げるor下げる食べ物一覧という記事1がん発症率を上げるor下げる 食べ物一覧|世界の研究データ総まとめ-介護ポストセブン。
記事によれば、
がんの罹患率が上昇している日本。予防のために、日々の生活の中で、どのような食材を口にしていいのか。科学的根拠に乏しい健康情報が巷に溢れる中、しかるべき研究機関で立証された医学的データを世界中からリサーチ。ここでは、発がんリスクを上げる食べ物とリスクを下げる食べ物を併せて紹介する。
とのことで、食材の具体例を挙げて科学的根拠に基づくリスクの話をしている体なのだが、内容がまあ片手落ちと言うか、無駄に煽っているというか。
確かに、健康的なライフスタイルはがん予防効果が知られている。
今回の記事のように、”あれを食べると危ない”、”これを食べるとがんのリスクが上がる”という話も巷に溢れており、不安に思う方も多いかと思う。
今回は記事で紹介されている”がんの発症率に関わる食材”について一部具体例を取り上げつつ、本当に意味があるのか考えてみたい。
目次
牛乳を毎日沢山飲む女性は卵巣がんリスクが上がる?
記事内では、牛乳や乳製品から乳糖を多量に摂取する人は卵巣がんのリスクが13%上がるという2006年に発表された研究2Milk, milk products and lactose intake and ovarian cancer risk: A meta‐analysis of epidemiological studiesを根拠として示している。
これだけ読むと、がん予防のため飲むのをやめよう!と考えてしまう人もいるかもしれないが、この結果は唯一にして絶対的に信頼できるものなのだろうか?
乳製品と卵巣がんとの関係を調べた研究の数は?
牛乳などの乳製品の摂取量と卵巣がんリスクを調べている研究は2017年までに上記の研究を含めて29件報告されており、卵巣がんのリスクを高めると結論付けている研究は上記を含めて実は2件だけしかない3Dairy product consumption and development of cancer: an overview of reviews | BMJ Open。
29件中27件は、牛乳やチーズ、ヨーグルト等など乳製品の摂取と卵巣がんリスクに関係はないと結論付けている。
リスクがあるかもしれないということを啓蒙することは悪いことではないが、統一的な見解が得られていないものを悪い面のみを断定して紹介するというのはいかがなものだろうか。
牛乳は手軽にカルシウムやタンパク質等が得られる食材だけに、過度にリスクを恐れて飲むのをやめてしまうとそのメリットを失うことになる。
現時点では明確ではないものの、牛乳は過度に摂りすぎないように気を付けた方が良いかもしれない、という程度の理解が適切だろう。
ちなみに、1日牛乳3杯分相当以上の乳糖を摂取する女性は、乳糖の摂取量が少ない人よりも卵巣がんリスクがやや高いことが報告されていることから、ハーバード公衆衛生大学院からは牛乳は1日コップ1~2杯にとどめることが推奨されている4Healthy Eating Plate。
コーヒーを毎日5杯以上飲む人は肝がんリスクが大幅に下がる?
記事内で根拠としているのは、日本人を対象とした多目的コホート研究の結果5コーヒー摂取と肝がんの発生率との関係について | 現在までの成果 | 多目的コホート研究 | 国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ。
コーヒーを1日5杯以上飲む人では肝がんリスクが76%低かったと報告されている。
これだけ読むと、肝がん予防のためにコーヒーをたくさん飲もう!と思われるかもしれない。
また、コーヒー飲めないけど、その場合どうしたらよいのかな?という方もおられるかもしれない。
ここでポイントになるのは、肝がんの約8割はウイルス感染(B型肝炎ウイルス or C型肝炎ウイルス)が原因であること。
肝炎ウイルスに感染していなければ肝がんを発症するリスクがそもそも低いので、予防を目的としてコーヒーをたくさん飲むメリットはほとんどない。
それよりもB型肝炎ワクチンを受けることの方が確実に効果があるだろう。
ワインを毎日グラス6杯以上飲む人はがん全体のリスクが増える?
これも記事内で根拠としているのは、日本人を対象とした多目的コホート研究の結果6飲酒とがん全体の発生率との関係について | 現在までの成果 | 多目的コホート研究 | 国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ。
なぜ記事内ではワイン表記にしたのかよくわからないが、上記研究の結果では1日あたり、日本酒でいえば3合、ビールでいえば中ジョッキ3杯程度以上毎日飲む男性ではがんのリスクが1.6倍に増加したことが示されている。
アルコールはこの研究以外でも大腸がん食道がん、乳がんなどのリスクを高めることが知られており、お酒の飲みすぎは体に良くないというのは皆さんご承知の通りの事実だろう。
ところで、飲酒に喫煙習慣を加味すると、たばこを吸う男性では飲酒量に応じて発がんリスクが高まり、日本酒3合以上を毎日飲むとがんを発症するリスクが2.3倍高まることが上記の研究で報告されている。
一方で、たばこを吸わない人では飲酒量が増えても発がんリスクは高くならなかった。
たばこ単独のリスクについては、吸う人は吸わない人に比べて全体的な発がんリスクが男性1.6倍、女性1.5倍に高まるということが報告されており、今回紹介する食事のリスクよりもたばこの方がよっぽどリスクが高かったりする。
牛・豚などの赤肉を毎日食べる女性は結腸がんリスクが高い?
これも根拠としているのは、日本人を対象とした多目的コホート研究の結果7赤肉・加工肉摂取量と大腸がん罹患リスクについて | 現在までの成果 | 多目的コホート研究 | 国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ。
この研究においては、
- 1日の赤肉の摂取量が多い女性(約80g以上/日)では大腸がん(結腸がん)のリスクが高まることが確認された(摂取量の少ない人に比べて1.48倍高い)。
- 男性では赤肉摂取量による結腸がんリスクの増加は確認されなかったが、肉類全体の摂取量の多い人(約100g以上/毎日)では結腸がんのリスクの増加が高まった。
赤肉や加工肉の大腸がんリスクは、世界がん研究基金(WCRF)や米国がん研究協会(AICR)において確実と評価されており、国際がん研究組織(IARC)においてもおそらく発がん性があるとされている。
とはいえ、現時点においては日本人の赤肉や加工肉の摂取量は世界的には低いため、通常の摂取量であれば大腸がんリスクにはほぼ影響しないと考えられている。
焼き肉をよく食べる女性は乳がんによる死亡リスクが高い?
2017年にアメリカで報告された研究を根拠8Grilled, Barbecued, and Smoked Meat Intake and Survival Following Breast Cancer | JNCI: Journal of the National Cancer Institute | Oxford Academicとしている。
これも統一的な見解となっているものではない。
論文の結論を正確に訳すと、焼いた肉(バーベキューした肉)や燻製した肉の多量の摂取は乳がん患者の死亡リスクを高めるかもしれない。
というか、これがんの発症リスクの話じゃないですしね。
結論 (個人としての見解)
記事中には他にも具体例が挙げられており、全部に言及しようかと思ったのだが、力尽きた長くなってきたのでこの辺でまとめておきたい。
結局のところ、がんのリスクとなることが世界的に認識されている食材は赤肉・加工肉と大腸がんとの関係くらいである。
その赤肉であっても上述のように平均的な日本人の摂取量であれば大腸がんリスクはほぼ考えにくいとされている。
つまり、何かを食べるとがんになるというものはほとんどなく、何かを食べるのを避ければがんにならないというものもない、と考えられる。
これは今回取り上げた食材に限らず、全般に言えることだ。
医食同源という造語があるくらい日本人は医療としての食事への思い込みが強く、今回紹介したような記事に踊らされがちな気がする。
食事だけでがんの完全な予防は不可能だ。
であるならば、肉・魚・穀物・野菜・果物等バランス良く摂ることを念頭に置きつつも、美味しいもの・食べたいと思うものを食べるというのが人生のQOL(生活の質)を高めるうえで重要なのではないかと個人的には思う次第。
(現代の日本の食生活を考えると、野菜や果物は多く摂るよう意識した方が良いとは思うが)
また、上述したように食事よりもたばこの方がリスクがあると言え、喫煙されている方はがん予防のために食事に気を付ける前にまず禁煙が大事ですよ、ということで。