先日、運動習慣や健康的な体重を維持することは、ステージ3の大腸がん患者さんの生存率を高めることにつながるという研究をご紹介した。
上記の記事では、アメリカがん協会(ACS)が発行するがんサバイバーに向けた栄養と運動のガイドラインを取り上げたわけだが、このガイドラインの運動の部分はアメリカスポーツ医学会(ACSM)から提示される運動ガイドラインに基づいて作成されている。
先月、エビデンスに基づいた運動によるがん予防や治療に関する提言1Expert Panel: Cancer Treatment Plans Should Include Tailored Exercise PrescriptionsがACSMより新たに出され、がんサバイバーに向けた運動ガイドラインも約10年ぶりにアップデートされた。
今回はそれをご紹介したいと思う。
目次
新ガイドラインの要約
引用 American College of Sports Medicine (ACSM)
全ての成人向け
運動はがん予防に重要であり、特に
- 大腸がん(結腸がん)
- 乳がん
- 子宮体がん(子宮内膜がん)
- 腎臓がん
- 膀胱がん
- 食道がん
- 胃がん
の計7種類のがんのリスクを低下させる。
各がんへ運動の効果については下記のエビデンスレベルにて評価されている。
エビデンス | 運動によりリスクが下がるがん |
強 | 大腸(結腸)、乳がん、子宮体(内膜)、腎臓、膀胱、食道、胃 |
中 | 肺 |
エビデンス | 活動的ではない(動かない)時間が長いとリスクが上がるがん |
中 | 子宮体(内膜)、大腸(結腸)、肺 |
がんサバイバー向け
運動は乳がん、大腸がん、前立腺がん後の生存率を向上させるため、積極的に取り入れよう。
がん治療中の運動や治療後の運動は、リンパ浮腫を悪化させることなく、倦怠感(疲労感)や不安、抑うつ、身体機能、生活の質を改善し得る。
下記のエビデンスに基づき、ガイドラインの策定は行われた。
エビデンス | がんと診断される前の運動習慣により死亡リスクが下がるがん |
中 | 乳、大腸(結腸) |
エビデンス | がんと診断された後の運動習慣により死亡リスクが下がるがん |
中 | 乳、大腸(結腸)、前立腺 |
エビデンス | がんを患った人が運動することで得られるメリット |
強 | 不安の減少 |
うつ症状の減少 | |
倦怠感(疲労感)の軽減 | |
QOL(生活の質)の向上 | |
身体機能の改善 | |
リンパ浮腫の悪化のリスクはない |
※ 原文に当たりたいという方のためにリンクを張っておきます。
どのくらいの運動をすればよい?
従来からの指標
- 中等度の運動を週に150分間
- 高強度であれば週に75分間、
※強度と運動の具体例については、下記記事にて解説しています。
新しい指標
近年の研究をもとに検討した結果、エビデンスレベル強で示されている上記の運動のメリットの大多数は、
- 週3回の30分の有酸素運動
- 週2回の筋トレ(1セットあたり8~15回繰り返し、回数を少しずつ増やしながら2セット行う)
これらでも同様の効果が得られるということが判明し、従来の指標に加えて、より身近な指標として新たに提言された。
まとめ
週3回30分ずつの有酸素運動や週2回の筋トレの習慣を取り入れることで、
- 7種類のがん(大腸がん、乳がん、子宮がん、腎臓がん、膀胱がん、食道がん、胃がん)のリスク軽減
- 乳がん、大腸がん、前立腺がん罹患後の死亡リスクやQOL悪化の軽減
が期待される。