がん基礎知識

胃がんに対するオプジーボの効果【最新論文に基づくエビデンス】

以前、胃がんにおけるオプジーボについて記事を書いた。

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進行・再発胃がんの方からすれば、オプジーボに大きな期待を持っている方や実際どのくらい有効なのか気にされている方は多いだろう。

私の父もSOX療法から始まり、パクリタキセルを経て、最後にオプジーボへと移行していっただけに気にかかるお気持ちはよくわかる。

ステージ4 進行胃癌に対するSOX療法 1クール目【経過と副作用】高度な腹水貯留を伴う進行胃癌と診断された父の治療としてSOX療法を選択してから数日たった2017年11月下旬、いよいよ治療が始まった。 ...

あれから約2年経ち、進行胃がんに対するオプジーボの効果もだんだんと明らかとなってきている。

以前紹介した研究は、オプジーボを使っている進行胃がんの患者さんを約9ヶ月追跡したものだったが、最近、同じ患者さん達を2年間追跡した研究が報告された。

今回は、最近の論文データ1A phase 3 study of nivolumab in previously treated advanced gastric or gastroesophageal junction cancer (ATTRACTION-2): 2-year update dataに基づき、オプジーボの投与が進行・再発胃がんの患者さんにどのくらい効果があるのかについて紹介していきたい。

 

目次

オプジーボの胃癌への効果

全生存率(投薬開始後2年間の生存率)

全生存率 投与後1年 投与後2年
オプジーボ群 27.5% 10.6%
プラセボ群 11.6% 3.2%

今回の結果からオプジーボを投与されている胃癌の患者さんの2年生存率は10.6%という結果となった。

オプジーボを使っている胃がん患者さんのうち、約10人に1人が2年間生きておられるということになる。

他のがんへのオプジーボの効果から考えると、胃がんについてももう少し生存率を延長できるかと思っていただけに、率直に言って少々残念だ。

胃がん以外へのオプジーボの効果

最近、治療歴を有する進行非小細胞肺がん患者さんに対するオプジーボの効果として5年生存率約13%という数字が報告2小野薬品工業株式会社 2019年9月11日 プレスリリースされており、これは抗がん剤であるドセタキセルを使った場合の5倍以上に相当する。

また、進行したメラノーマや腎細胞がんにおいてもそれぞれ5年生存率が34.2%と27.7%と見積もられている3Five-Year Survival and Correlates Among Patients With Advanced Melanoma, Renal Cell Carcinoma, or Non–Small Cell Lung Cancer Treated With Nivolumab

とはいえ、詳細は後述するが、胃がんにおいてもオプジーボが効いた人では長い期間効果が持続しており、ポイントは効く人と効かない人の違いはなんなのか、という点だろう。

無増悪生存率(胃がんの進行がなかった人の割合)

無増悪生存率 投与後1年 投与後2年
オプジーボ群 9.3% 3.8%
プラセボ群 1.5% 0%

プラセボ群では2年間の間に全員の胃がんの進行が見られたが、オプジーボを使っている人のうち3.8%の人は進行が起きていなかった。

オプジーボを使っている患者さんのうち、約100人に4人は2年間病態が安定しているということになる。

奏効率(CTもしくはMRI画像上腫瘍の縮小効果が認められた人の割合)

完全奏効+部分奏効(腫瘍が完全に、または30%以上縮小した人)

奏効率 投与後1年 投与後2年
オプジーボ群 11.2% 11.9%
プラセボ群 0% 0%

当然ながらプラセボ群では全員がんの縮小は認められないわけだが、オプジーボを使っている人は投与後1年で11.2%の人に、投与後2年で11.9%の人に腫瘍の縮小が認められた。

数字上、投与後1年時点も2年時点もほとんど同じに見えるが、この数字は腫瘍が完全に消失した人(完全奏効)30%以上腫瘍が縮小した人(部分奏効)の合算であり、その内訳がポイントになる。

1年時点の内訳:完全奏効 0%, 部分奏効 11.2%
2年時点の内訳:完全奏効 1.1%, 部分奏効 10.8%

すなわち、オプジーボの投与を始めて1年の時点では部分奏効だった人の一部は腫瘍の縮小がさらに進んで、2年の時点では完全に腫瘍が消失したということになる。

また、特筆すべき点として、オプジーボの投与により腫瘍の縮小が画像上確認された人のうち、61.3%の人が2年時点で生存していた。

部分奏効から完全奏効になった人の特徴(治療開始時点)
  • パフォーマンスステータス1
  • 肺または肝臓への転移有
  • 広範なリンパ節転移有
  • マイクロサテライト不安定性は無
  • PD-L1の発現陰性

安定(腫瘍が30%縮小もしなければ20%以上増大もしなかった人)

生存期間の中央値は

  • オプジーボ群:8.87ヵ月
  • プラセボ群:7.62ヵ月

わずかに生存期間が伸びた。

進行(腫瘍が20%以上増大した人)

基本的にオプジーボ群とプラセボ群で生存期間に差はなかったが、オプジーボ投与を受けていた5人は2年以上生存していた。

そのうち3人はがん増大進行後もオプジーボを続け、1人についてはいくつかの腫瘍において若干の縮小が認められた。

PD-L1発現の有無での生存期間の比較

生存期間 PD-L1陽性 PD-L1陰性
オプジーボ群 5.22ヵ月 6.05ヵ月
プラセボ群 3.83ヵ月 4.19ヵ月

PD-L1の発現があろうがなかろうが胃がんに対するオプジーボの生存期間の延長効果は認められた。

PD-L1の発現解析は胃がんに対するオプジーボの効果予測マーカーとしては有用ではなく、今後より良いマーカーの探索が必要だろう。

現時点では、胃がんにおけるオプジーボは3次治療以降で使う薬剤であり、言うなれば最終防衛ラインの1つであるため、効果が高そうな人と低そうな人を選別して使う状況ではない。

しかし、進行・再発胃がんの最初の治療(1次治療)としてオプジーボを使った場合の研究が現在進められているように、今後オプジーボは今の3次治療よりも早い段階で用いられることになるだろう。

その場合、オプジーボの効果的な使用のためには効果を予測できるマーカーは必須になる。

有害事象

有害事象の種類としては、皮膚、消化器、肝、内分泌系の有害事象が高頻度に認められた。

治療に関わる有害事象は治療開始後3ヶ月以内に生じており、遅れて出てくるものは認められなかった。

まとめ

  • オプジーボ投与を受けて2年生存している進行胃がんの人は約11%
  • オプジーボにより腫瘍の縮小が認められた人では効果が長く続き、約61%の人が治療開始後2年時点で生存
  • オプジーボにより腫瘍が安定していた人にも生存期間延長の効果が認められた
  • オプジーボの効果はPD-L1の発現に関係ない
  • 遅れて発現する有害事象は認められない